へたうまに乗る

自分で描いたへたなイラストを挿絵に日々の出来事を切り取って紹介します。

エアギターがうるさい

某有名アーティストのライブに行ってきた。

2018年9月21日に結成30周年を迎えた●'z。
日本で最もCDを売り上げているモンスターバンドである。これまでのCD売上枚数は2018年8月時点で約8200万枚。単純計算すると1分間に12枚売れている計算になる。

 

私が「第142回 1分間息を止めていられるかチャレンジ」に挑んでいる間にも、B'zのCDは12枚も売れ、多くの人に感動、勇気、幸せ、悲哀、アンニュイ、希望、和らぎ、ロックンロール、懐かしさ、優しさ、激励、ビタミンB1、あのときの甘酸っぱい思い出、その他諸々を与えていたのだ。

そんな偉大なB'zの30周年ライブに参加するということで、中学生の頃からB'zファンである私の心は踊っていた。
「インナーとタオルは5年前のライブで購入したやつを持っていこう、上着は今年の2月に購入したものを着て行こう!」と。
長年何かしらのファンをしている人ならわかると思うが、ライブ会場とりわけグッズ販売所とは一種のファンの自慢大会の場でもあるのだ。

どう見ても何十回も洗濯機にかけ、色あせを通り越したシャツを着ている人がいる。
何も知らない一般男性が見たらこう言うだろう。
「オイオイオイ」
「死ぬわアイツ(恥ずかしさで」

しかしわかる人にはわかるのだ。
「ほう B'z LIVE-GYM Pleasure'93 JAP THE RIPPERツアーシャツですか…
 たいしたものですね

 着色料を抜いたシャツは汗の吸収の効率がきわめて高いらしく
 レース中に愛着するマラソンランナーもいるくらいです」

「なんでもいいけどよォ」
「ここはあの大阪だぜ」
「それに特大リュックからはみ出る自撮り棒とツアー販売トートバッグ
 これも速効性のグッズ販売所を楽しむものです
 しかも雨カッパもそえて準備もいい

 それにしてもライブ直前だというのにあれだけガチャができるのは
 超人的な購買意欲というほかはない」
「よし…とーーー」

とまあ着色料が落ちたシャツの吸汗性の話はさておき、
長年ファンをやっていると「オレけっこうファンパワー強いけど どうする?」
とマウントを取りたがるファンがいる。そう、私である。

ライブにはこれまで2回しか参加したことがないくせに、なまじファン歴が長いだけに始末が悪い。そう、私である。

9月某日。B'z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORIのライブ会場に男が現れた。
気温30度の中、5年前のライブで購入したタンクトップを身にまとい、
寒くもないのに自慢げに首に巻かれた5年前のツアータオル。
今年の冬のライブで購入したばかりのパーカーの下にはとめどなく汗が流れている。

冬用パーカー on タンクトップ 〜タオルマフラーを添えて〜 と異形の出で立ちで自慢げに練り歩いていたのはそう、私である。

私は首にタオルを巻いているにも関わらず、グッズ販売所で今回のツアー用タオルを購入した。
汗かきだから? 否。
寒さ対策? 否。
今回のタオルがカッコいいから? 否。
コレクションに加えるため? 否。

理由はたった一つ。
前回参加したライブの場で、B'zファンからあまりにも強烈な洗礼を受けたからだ。

話は2月に遡る。


5年ぶりにB'zのライブに参加することとなった。しかもファンクラブ限定のSS席でだ。

人生で2回目のB'zのライブ。しかもSS席。
私は舞い上がっていた。
しかし、ライブに参加するのは2回目とはいえ、B'zのファン歴は15年になる。

「舐められるわけにはいかない」

私は居もしない仮想のライバルの存在に畏怖し、マウントを取る為、5年前に初めて参加したライブで購入したタオルを握りしめ、ライブ会場に向かった。

しかし、あろうことかグッズ販売所ではツアータオルを購入しなかった。
一つの信念があったからだ。

ポーン(プロフェッショナル的な音)

「真のファンとは、昔から応援していることをメンバーに伝えるために、過去のグッズで応援するものだ」と。

信念に従い、タオルは購入せずにライブが始まり、楽しい時間はあっという間に過ぎ、ライブは終盤に差し掛かった。

B'zのライブには必ず行う定番のイベントがいくつか存在する。
ライブスタート時に小道具を使って稲葉さんが行う「B'zのライブジムへようこそ!」という小芝居。

全ての曲が終わったあとには演奏メンバーが一列に並び、観客と声を合わせて「せーの!」「「「おつかれー!!」」」と叫び終演となる締め。

そしてある曲では、ファン全体が演奏に合わせてタオルをクルクルと振り回しながら曲を楽しむ。
これは会場の人間全員が一体となって行うので圧巻である。

私が参加した冬のライブでもタオルを振り回す曲が演奏されたのだが、この時先に述べた強烈な洗礼を受けることになった。

イントロが始まり、会場全体が「あっ!」と何かに気づき、そそくさとその手にタオルを握りしめた。
私も遅れを取らぬようタオルを握りしめ、ステージの上で稲葉さんがタオルを降り始めたと同時に会場全体が示し合わせたかのうようにタオルを振り回し始めた。

SS席ということもあり、後ろを振り返ってみるともの4万人近い人数が一斉にタオルを振り回しており、ものすごく圧巻な光景だった。

だが、私はそのとき、感動ではなく焦燥感に襲われた。


「おれのタオルはみんなのと違う…」

9割9分9厘の人間は今回のツアータオルを振り回していた。

明らかに違う色のタオルを振り回している私はなんだか恥ずかしくなった。

まるで会場全体が「どうして古いタオルを回しているんだ?」と私を攻め立てているように感じられた。
「ファンというのは………いいか よく聞け!真の『ファン』とはッ!ツアーのたびにお金を落とし、B'zを支える者のことをいうのだッ!!」と。

およそ4万の群衆が一斉にタオルを振り回しながら「そうだそうだッ!」「ファン舐めんなコラッ!」「稲葉さぁあああああああん!!!」と言ってるように感じられるもんだからたまったもんじゃない。

その光景を目の当たりにし、

ー私はー
ツアータオルを買う必要があることを知った…。
ツアータオルを購入しないものに
純粋にB'zを応援する資格はないのだ。
そして タオルを手に入れたいと思ってもライブ中には買えないので
ーそのうち私は タオルを振り回すのをやめた。


と、身の毛もよだつ恐ろしい体験を経て私は真の『ファン』となった。

 

話を今回の30周年ライブに戻そう。

ライブ自体は開始予定時刻から10分ほど遅れてスタート。

1曲目からB'zの代名詞ともいえる「ultra soul」が流れ、
2曲目は累計売上が170万枚を突破した超名作「BROWIN'」と続き、
まるで最初からクライマックスかのような盛り上がりを見せる。

その後もアップテンポの激しい過去の名曲が続き、
私は形容しがたい満足感に包まれていた。

事件が起こったのは6曲目。「光芒」の時だった。

「光芒」とはシングルでなくアルバムに収録された曲で、世間一般には認知度の低い曲といえるだろう。だがB'zファンの間では「神曲」といわれるほどに評価の高い名曲である。

ファン会報誌での「聴きたいナンバー」では数ある名曲を抑えて2位にランクインするほどの愛されているバラード曲である。

私自身今回のライブで絶対に聴きたかった曲のひとつであり、イントロが流れた瞬間鳥肌が立ったのを覚えている。

イントロが終わり、稲葉さんの歌いはじめたところで
「ああ…今回のライブに来られて本当によかった…」と感動しているところで、
私の左前にいる、ある姿に初めて気がついた。


男が


ギターを弾いている

 


エアーで。


ライブなのでアップテンポの激しい曲では大声で歌う人や飛び跳ねる人もいる。
バラードではリズムに合わせて体を左右に揺らす人もいる。

だがどうだろう、ギターを弾く人はそうはいないのではないだろうか。

「なん…だと…??」と思いながらも、ライブの楽しみ方は人それぞれなので気にしないようにしていたが、めちゃくちゃ気になった。

そもそもB'zのGt(Guitar)の松本さんは演奏するときにあまり体を動かさない。

が、そのAGt(AirGuitar)はめちゃくちゃ体と首をくねくねと動かす。

リズムに合わせて左右に揺れるのではない。
ギターの一音一音「くねくねくねゆらゆらくねくねーんくねくねー」と動きまくるのだ。

B'zの大ファンなのだろう、リズムも強弱も完璧である。

だが、気になる。

ちょっと控えてほしい。

いや、本心は「頼むからやめてほしい」だった。

B'zに集中させて。

でも目に入るから見ちゃう、悔しい…。

結局この日のライブ中、バラードの曲ではずーーーっとエアギターを目の前で奏でられた。

エアギターをうるさいと思ったのは生まれて初めてだった。